指圧 とは、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(通称:あはき法)に定められた手技療法のことを指します。あん摩マッサージ指圧師資格は、専門の養成施設(専門学校等)にて3年間学んだのち、国家試験に合格して与えられる国家資格です。
あん摩、マッサージ、指圧の違いについて
1947年(昭和22年)に制定された 「あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法」(現行のあはき法のベース) には、あん摩、マッサージ、指圧の手技は明確に定義されていません。当時は、手技療法を行う者に対して医業類似行為を禁止し、これらの手技の名称のもとに営業免許を与えるための法律として制定された経緯があります。このため、あん摩、マッサージ、指圧の技術的な違いと特徴は曖昧なまま、一般に広まる結果となりました。
あん摩:なでる、揉む、叩くなど、7種類の基本手技があります。
奈良時代に中国から輸入され、江戸時代には視覚障害者を中心に盛んになりました。経絡の流れに沿って補瀉(ほしゃ:補ったり取り除いたりすること)を行い、気血の流れを整えます。
マッサージ:さする、揉む、振るわせるなど、6種類の基本手技があります。
16世紀後半にフランスで体系化され、明治時代に日本へ紹介されました。本来のマッサージはオイルやパウダー皮膚に塗布して行い、血液・リンパの循環を促進して新陳代謝を高めます。
指圧:押圧操作(押さえること)と運動操作(関節運動)の2種類の基本手技があります。
大正時代に盛んになり、日本古来の手技療法(療術:りょうじゅつ)の要素を取り入れています。漸増漸減(ぜんぞうぜんげん)の一点圧を用いて自律神経系に働きかけ、自然治癒力を高めます。
※ 漸増漸減: ゆっくり押さえて、ゆっくり離すこと
医行為と医業類似行為について
医行為とは、医師が専門的知識と技術をもって行う行為(治療行為)を指します。
あん摩、マッサージ、指圧、鍼、灸、柔道整復については、これらの国家資格を有する者が免許の範囲において行う「医行為の一部」として認められています。(業務独占資格)
医業類似行為とは、医師、あん摩マッサージ指圧師(あマ指師)、はり師、きゅう師、柔道整復師が業務として行う行為以外のものを指します。言い換えると、国家資格を持たない者が疾病の治療を目的として継続的に行う行為、いわゆる民間療法がこれに相当します。
医業類似行為は 『人の健康に害を及ぼす恐れがある』 ため、あはき法第12条により禁止されています。しかし、その解釈をめぐって最高裁判決が確定した当時と現在では乖離しており、あん摩・マッサージ・指圧に酷似する手技があん摩マッサージ指圧師の資格を持たないまま行われている現状があります。憲法第22条第1項に定められている職業選択の自由の観点から厳格な取り締まりは行われておらず、医療事故が生じた後に処罰の対象となる現状に留まっています。
手技療法の歴史と法制化への道のり
ヒポクラテスの時代から、ヒトは痛むところに手を当てる行為(手当て)を行ってきました。16世紀後半~17世紀にかけて、フランスを中心にマッサージを体系的に研究する取り組みが行われ、18世紀のヨーロッパでは整形外科の領域で用いられるようになりました。
一方、日本では大宝律令、養老令に「按摩」の文字が記録されており、江戸時代にはあん摩を中心とした手技療法が盛んになりました。その後、明治維新により西洋からさまざまな手技療法が導入され、大正時代には柔道整復も含めた療術行為が盛んとなりました。
1874年 (明治7年) 政府が「医制」を公布
鍼治灸治ヲ業トスル者ハ 内外科医ノ指図ヲ受ルニ非サレハ 施術スヘカラス
1911年 (明治44年) 「按摩術営業取締規則」「鍼術灸術営業取締規則」 (内務省省令)
現在のあはき法による規制のベースとなる内容が定められた
1947年 (昭和22年) 「あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法」 制定
医業類似行為を全面的に禁止とした
1951年 (昭和26年) 「あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法」 制定
身分法であることを明確にした
1955年 (昭和30年) 法改正/あん摩(マッサージ、指圧を含む) として法律に認められる
1964年 (昭和39年) 法改正/あん摩マッサージ指圧師として名称改正
1988年 (昭和63年) 法改正/都道府県資格から国家資格となる
現在、施行されている 「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」 は、1947年(昭和22年)に制定された法律の域を出ていません。その要点は、次の3つになります。
・養成施設(専門学校等)を卒業し、試験に合格すること
・医業類似行為を禁止すること
・晴眼者を対象とする養成機関の定員増を認めないこと
2000年(平成12年)には、柔道整復師、鍼灸師養成施設の設置基準が緩和された結果、柔道整復、鍼灸の有資格者数は増加の一途をたどっています。一方で、あん摩マッサージ指圧については、視力障碍者の職域確保を理由に養成施設の定員数は従来のまま規制されています。
職業の変遷から見る手技療法(あん摩、マッサージ、指圧)
手技療法の歴史を振り返ると、近代では江戸時代に視覚障碍者があん摩、鍼灸、琵琶の演奏などにより自らの経済的自立を図っていました。やがて、明治の終わりから大正時代にかけて、アメリカからカイロプラクティックやオステオパシーなどが輸入されるようになり、晴眼者も治療を目的とした手技療法を行うようになります。
1891年(明治24年)に、東大病院にて医療マッサージ師が採用されたことを契機にして、医師の指示のもと整形外科において消炎鎮痛を目的としたマッサージが行われるようになりました。やがて、運動療法、手技療法なども含め、水治療法、温熱療法、電気療法を中心とした物理療法が普及していきます。
その頃、諸外国からは医療技術とともに医薬品も輸入されました。しかし、薬の副作用に対するアンチテーゼとして、医師以外の者が「無薬療法」(薬を使わない治療)をうたった療術(りょうじゅつ)と呼ばれる手技療法を盛んに行うようになりました。
1945年(第二次世界大戦後)、GHQにより日本国憲法が制定されると同時に、それまで行われていた療術は全面的に否定されました。その一方で、視覚障碍者の既得権益を守るためにあはき法が制定され、「あん摩」の名称以外の手技療法を行ってはならないとされました。その後、たび重なる法改正を経て、現在は医師以外の者で免許を取得した者は、あん摩、マッサージ、指圧、鍼、きゅう、柔道整復を行ってよいと法律で認められています。
1960年代後半、浪越徳治郎氏がTV番組のなかで指圧教室のコーナーを受け持つと『指圧の心 母ごころ おせば生命の泉湧く』 のスローガンが一世を風靡しました。当時は「指圧」の看板を掲げておけば、患者さんが途切れなかったと言われるほどでした。今日では、あん摩マッサージ指圧師が携わる職業として、病院、治療院などへの勤務、介護福祉施設での機能訓練指導、健康保険の適用となる訪問マッサージなどの業態があります。
指圧とは、疾病の治療および予防を目的として、全身の体表に定められた部位に徒手を用いて、原則として漸増、漸減の垂直圧の一点圧を主体とした押圧操作を、遠心性の方式で生体に加え、生体に備わっている自然治癒力の働きを促進し、疲労素を取り除き、健康を増進させる手技療法のことです。(完全図解指圧療法/浪越徹 著より引用)
リハビリテーションと手技療法
1965年(昭和40年)に 「理学療法士および作業療法士法」 が施行されると、PT、OT によるリハビリテーションが行われるようになりました。やがて、日本は高度経済成長、人口の増加とともに高齢化社会を迎えるようになります。1989年(平成元年)に厚生労働省が「高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略」(通称:ゴールドプラン)を発表すると、病院でのリハビリテーションが主流となり、現在に至ります。
ここ数年は、消炎鎮痛を目的とした施術を行うためにあマ指師が医療機関に雇用されるケースは少なくなってきています。2000年(平成12年)、介護保険制度の施行と前後して、高齢者を取り巻く環境は在宅医療へと大きく舵を切りました。超高齢社会を迎えた現在では、慢性疾患で療養されている方を対象とした、あマ指師による訪問マッサージを行う業態が増えています。
「理学療法士および作業療法士法」 第2条によると、『理学療法とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう』 と定義されているように、PT、OT も業務としてマッサージを行うことが法文に明記されています。
理学療法士、作業療法士(PT、OT)は看護師と同様に、医師の指示のもと手技療法や物理療法を行うため開業権は認められておらず、その多くが医療機関に就業しています。一方、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師には開業権が認められており、医療機関で働くほかに独立開業の道も開けています。