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夏季講習会を行いました・徒手検査と動作分析

8月17日,19日の2日間にわたって、鍼灸マッサージを学んでいる学生向けの講習会を行いました。
テーマは【徒手検査と動作分析】
今回は、この講座を開催しようと思い立った背景と当日の内容について記します。

鍼灸マッサージの教育課程に足りないもの

私自身は治療院で施術をする傍ら、現在は鍼灸マッサージの専門学校で実技の非常勤講師を務めています。
自分自身も施術に携わるようになって25年以上になります。

その過程で、「もっと詳しく体のことを知りたい」と感じている分野がありました。
それが、運動学の知識です。
ヒトが歩く、立つ、座るといった日常的に行っている動きを十分に理解すること。
その動きの過程で具体的にどんなことが起きているのかを知ること。

セラピスト、という言葉には多くの職種が含まれます。
フィジカルセラピスト(Phygical Therapist)と言えば、日本ではPT=理学療法士のことを指します。
マッサージセラピスト(Massage Therapist)=法文に基づいた名称であれば、あん摩マッサージ指圧師のことを指しています。
ほかにも民間資格の類いで◯◯セラピストと称しているものもありますが、ヒトの体に触れて施術を行うのであれば最低限、解剖学に加えて姿勢と動きについて理解しておく必要があると私は考えています。

一方で鍼灸師、マッサージ師の国家資格を取得する教育課程で学ぶ解剖学は「系統解剖学」と呼ばれる分野です。具体的にその内容は、筋肉の名前を覚えたり、骨格の構造だったり、呼吸はどのような臓器によって行われるかという分野ごとに解剖学の名称と仕組みを覚える範疇になります。

かたや現場では、「立ち上がるときに膝が痛いんです」とか「長い時間、車を運転していたら腰が痛くなりました」といった、具体的な体の不調の訴えのある方々に施術を行っていきます。
学校で習った通り一遍の施術だけでは通用しないのはもちろんです。訴えのある方に【何が起きていて】【どうすればよくなるのか】を観察し、推測する能力が求められます。そして、その能力を身につけるには、厚生労働省が認めているカリキュラムだけでは十分とは言えません。

私自身も専門学校で免許を取得したあとに、ほかの団体が主催するセミナーや講座を受講したり、職場で一緒に働いていた理学療法士に聞いたりして身につけてきました。
そして、それらを活用してようやく、施術の現場でも相手の訴えを解決できる糸口を見つけられるようになったと感じています。

授業で行っていることは現場の一部

そのような経緯を経て、いまは都内にある専門学校で徒手検査の授業を担当しています。
この授業のテーマは【相手の姿勢と動きを見て、どこに課題があるかを考察していく】ことです。

全身を体幹、下肢、上肢の3つに分けて、部位ごとに関節を動かします。
そして動きや肢位(腕や足の位置)が標準的なのか、標準から逸脱しているのかを目で見て、手で触れながら確かめるという内容です。
テキストを読んで図を見て覚える知識としての解剖学から、手で触れて実際に動かして体感する「現場で活かす解剖学」への脱皮を試みているとも言えます。

具体的には、仰向けに寝ている人の肘をゆっくりと曲げていきます。
体の横に置かれている腕の位置を確かめ、手首を持って肘を曲げます。通常は肩に向かってゆっくりと肘は曲がっていき、最終的には中指が鎖骨の下、烏口突起と呼ばれるところに着くような曲がり方をします。

しかし、肘を曲げている途中にカクンと引っかかる手ごたえがあったり、まっすぐ肩に向かわずに前腕が外側に開いていくようなケースもあります。
このように標準の範囲から逸脱した動きを見抜くこと。そして逸脱した動きがみられるときに、肘関節または上腕や前腕の筋肉に何が起きているのかを理論立てて推察していくことが徒手検査の目的です。

まずは、徒手検査の仕方を覚えること。
次に、徒手検査で確認した【逸脱した動き】は、どのように起きているのかを推察すること。
最後に、逸脱した動きを標準的な動きに修正していくための方法を検討すること。

ここまで出来て、はじめて相手の訴える症状を解決していく道筋を立てられるようになります。
もちろん、徒手検査をしながら必要なヒアリングもしていきます。これらの方法を統合したものを【臨床推論】と呼び、臨床現場で必要な能力のひとつです。

繰り返しになりますが、このような授業は私自身、現場を踏まえて手探りをしながら組み立ててきました。
そして、ほかの専門学校で積極的に行われていると聞いたことはこれまでにありません。理学療法士なら当然のように行われているカリキュラムです。
知識だけに偏らず、体感できる解剖学、運動学の知識を身につけることで鍼灸師、マッサージ師は自信をもって施術ができるようになる。そのための道筋を伝えていきたいと考えて取り組んでいます。

夏季講座:1日目

徒手検査の授業だけでは足りない、もっと学びたいという学生の声を受けて、夏休みの間に私個人が主催して講座を行う流れになりました。テーマは【徒手検査と動作分析】、私のとっても初めての試みです。

テキストの表紙がシュールで気に入っています。
Xにポストしたところ、美大卒の先生からもいいねとリプライをいただいてちょっと嬉しかったです。

内容は、理学療法士が使っているテキストを参考にして組み立てました。

夏休みの午前中、3時間で伝えられることに限りはありますが、できるだけ要点をわかりやすく伝えるようにしました。まず行ったのは、運動学の用語の説明です。

・支持基底面 ・重心 ・モビリティとスタビリティ 
・OKC(オープンキネティックチェーン)とCKC(クローズドキネティックチェーン)
・求心性収縮と遠心性収縮…

初めて聞く言葉に戸惑いながらも、図を描いて説明したり、実際に体を動かしてみて違いを感じたり、少人数だからこそできる体験型の講座の始まりです。

臨床現場では、「立ち上がるときに膝が痛いんです」という声を聞きます。
しかし、それは難易度の高いテーマです。まずは基礎となる姿勢と動きを理解することから始まります。
ヒトが日常生活を送るうえで基礎となる動きは、4つ。
立つ、歩く、寝返る、起き上がる…これらの動き(基本動作)がどのような仕組みで行われているのかを身をもって体験し、腑に落とし込みます。

起き上がりの介助動作

冒頭に質問やリクエストを聞いたところ、寝ている人の起こし方(起き上がりの介助)はどうやったらいいですか?という声がありました。
質問してくれた学生は以前、福祉施設で働いていた経験があり、寝ている児童を起こすのに苦労した経験があるのだと話していました。

起き上がり動作を教科書どおりに動作分解して、文章を読んだところで何かが身につくわけではありません。アイスブレイクという位置づけで、実際に寝ている人を起き上がらせるための介助方法を実演して見せました。

ここでポイントとなる動きは、持ち上げないことです。
寝ている人を起こす、座っている人を立ち上がらせるのに、ついやってしまいがちなのが【上に持ち上げる】動作です。何も知らない人であれば、10人中9人が上に持ち上げるようにして相手を動かそうとします。
そして、これをやると確実に腰を痛めてしまいます。

介助動作のコツは、2つ。
重心を低くすることと、転がすこと。
手前に引く、自分(介助者)のスペースを広くとる、円を描くように動く、などいくつかのポイントを示して受講生にも動きを覚えてもらいました。

あん摩マッサージ指圧師の資格を取得したあと、訪問マッサージを呼ばれる業態で働く方も一定の割合でいます。介護と隣接している現場では必ず求められるスキルです。
そして、より適切な介助動作を身につけるには繰り返し行う経験に加えて、動作に必要なコツを知っていることも欠かせないと私は思っています。

座位はヒト特有の姿勢

まずはじめに行ったのは、座位の理解です。
座るというあまりにも単純な行為ですが、坐骨(骨盤)で座ることができるのはヒトに限られます。
(そのためヒトには腰痛の訴えが多く見られることの裏返しでもあります)

講義の途中で一旦手を留めて、まわりの受講生を見渡して座っている姿勢を観察します。
・背中が丸くなっている
・肩が前に入っている
・左肩が下がっている
・顎が前に出ている
・骨盤が横に崩れている(横座りの姿勢)
1,2分、眺めただけでも、気がつくことはかなりあります。

そして、その姿勢をしているときに「どの筋肉を使っているのか」、「どこに痛みが出てきそうか」を全員で考えてみました。

次のワークでは、イスに座っている人の3つの姿勢を示して、どのように違いがあるのかをディスカッションしています。
・1人目(A)はイスの背もたれに寄りかかっている人
・2人目(B)は、スマホを覗き込むように眺めている人
・3人目(C)は、背すじを伸ばしてまっすぐ前を見ている人

1人目と2人目の姿勢が崩れているのはパッとみてわかります。
3人目の姿勢は一見、理想的な「よい姿勢」に見えます。
しかし、この姿勢を1日8時間、続けていたらどうなるでしょうか。そこに、このワークで伝えたい本質があります。

1日目のまとめとして、座位保持で疲れないためのトレーニングを紹介しました。
背すじを伸ばして固めるのではなく、肩の力を抜いて座る。
そのうえで体幹にある深層の筋肉、腹横筋を使えるようになるトレーニング方法です。

インナーマッスルと呼ばれる筋肉が十分に機能することで、体幹が安定してより無理のない座位の姿勢を保つことができるようになります。

最後に、応用として【イスに座っている人が目の前のコップを取る】動きは、どのように起こるのかを受講生全員で考えてみました。

冒頭から体を使って知識をつなげて考えることをしてきたため、手を伸ばす動きをしながら、どこが動いているかを体感しながら言葉に出して、感覚を言語化していく工程でした。
ただ本を読む、動画を見るだけでなく、課題を設定して実際に動いてみることで納得できるものがあると感じられた講座になりました。

夏季講座:2日目

1日目は座る、起き上がるをテーマに講義と実技を行いました。
2日目は立つ、立ち上がるの2つがテーマです。

まずはじめに、しばらくの間、立ちます。
そして、まわりの受講生の姿勢を観察してもらいます。

私が初めて訪問マッサージの現場に出たときに、先輩に言われたことを思い出しました。
「新人の間はまだ時間があるからさ、山手線に乗って一周回ってきなよ」
「そうするとヒトの姿勢を観察できるよ」
まさにその通りで、姿勢と動きを観察するところが運動学の出発点なのだと私は感じています。

行ったワークは
・体重を左または右、片足に移してみる
・立ったまま、両手を挙げて前習えしてみる
・片方の手に荷物を持ってみる

ここで体感してほしかったのは、重心の移動とそれに伴う筋肉の使われ方です。
・ある姿勢を取ったときに、どこに力が入りやすいか
・同じ姿勢をしばらく続けていると、どのあたりに負担が掛かってくるのか
こういったことをひとつひとつ、確かめることが現場での課題を見つけるきっかけになると考えています。

そして次に、立っている受講生の背中を触診していきます。
すると、背中がフラットな人、腰の前腕が強い人、いわゆる猫背の人…
洋服のうえから見ただけでは分からなかったシルエットが浮かび上がってきます。

慣れてくると、背中を撫でる行為ひとつで筋肉の硬さや偏りまで感じられるようになります。
最初に師事していた指圧の先生に「押す前に触れて確かめなさい」と言われていたのは、このことだったのかと振り返り、気づかされました。

そして、例えば肩が前に入って背中が丸くなってしまっている人、具体的には巻き肩、猫背と呼ばれる人の姿勢を背すじが伸びたに状態に変えるには、どこをどのようにするとよいか…
受講生同士、意見を出し合ったあと、実際にモデルにその姿勢をとってもらいました。

「よい姿勢」とはどういうことか?

私たちはいつも何気なく立っている、座っている姿勢をしています。
そして自然にバランスを取って倒れることなく動いています。これは「姿勢反射」と呼ばれる意識しないでも動ける仕組みがヒトの体に備わっているからです。

その反対に、意識して背すじを伸ばそうとする、いわゆる「よい姿勢」になろうとするワークを行った後では「結構つらい」「無理してる」という感想が返ってきました。

果たして「よい姿勢」とはどのような状態なのでしょうか。
この命題に対して、私は患者さんに接するなかで感じてきた一定の(答え)があります。

その前提として【私たちは一定の振り幅のなかで揺らいでいる】という考え方です。
生理学の言葉では、ホメオスタシスと呼ばれます。具体的には、ヒトの体温は36.5°前後に保たれているという現象です。
立っている姿勢においても、左足と右足の間に自分の体重(重心)がある。
その範囲(支持基底面)を超えてしまうと、バランスを崩して転んでしまう、という結果になります。

右足に立ったり、左足に立ったり。
ゆらゆらと揺れながらバランスを取っていて、それは前後だったり斜めだったりします。
つまり、1日目に行った3人目の姿勢、背すじが伸びた状態をずっと続けていると、いつの間にか特定の筋肉だけを使っていて過緊張になってしまい、かえって辛くなるということが起こります。

審美的には「よい姿勢」であっても、その状態で固定してしまうことはかえってマイナスになる。
機能的には、一定の幅で(行ったり来たり)揺らぎながら安定を保つことが、姿勢保持には必要な考え方なのだと、私は理解し、受講生にもそのように伝えています。

立ち上がりの理解と筋膜リリース

2日目の中盤は、立ち上がるというワークを行いました。
座った状態と立った状態についてある程度、理解できたところでこのテーマを行うことにより重心移動について具体的に理解を深める目的があります。

立ち上がるという行為は、次の3つの段階に分かれます。
・重心の前方移動期
・殿部離床期
・重心の上方移動期

それぞれの段階でどのような動きが起きているのか。
実際に2人一組で動きながら、起こっていることを確かめます。
足の位置ひとつ、頭の動きを変えることで立ち上がりやすくなったり、逆に立てなくなったりします。

つまり、立ち上がる動作はいくつかの関節が連動して、一連の動きを作り上げているということになります。そして、どこかに逸脱が起きて(例えば膝が痛いなど)、動きの連鎖が止まってしまうために立てなくなるということも理解できます。

下肢の筋膜リリース

2日目の最後には、おもに下肢にトラブルが起きた場合の対処法として、筋膜リリースの実技を行いました。

扱った筋肉は…
・大腿四頭筋
・下腿三頭筋 の2つ
立ち上がり動作を行う際に大きな力を発揮する筋肉です。

筋膜リリースは毎月の講座でも行っているので、具体的なテクニックの説明はそちらに譲ります。
興味のある方は当院までお問い合わせください。

まとめ

今年の夏季講座では、徒手検査から一歩踏み込んで、姿勢保持と立ち上がり動作の理解を深めることをテーマに資料を作成し、ワークを中心に行いました。

受講した学生は2日間で12名でした。
寺子屋式に一人ひとりの様子を見ながら講座を展開していくにはちょうどよい人数だったと感じています。
私自身も初めてのチャレンジでしたが、これまでの経験から得たものを伝えることができたことを嬉しく思います。

最後に、受講生からもらった感想の一部を掲載して、この記事を終えたいと思います。
私にとって感想は大切な宝物です。

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