当院には中学生からご高齢の方まで、年齢もニーズも幅広い方がお越しになっています。
手当てによる変化を検証するため、年に一度、モニターを募集しています。今年5月から約半年の施術の経過をまとめましたので記録として綴ります。
「野球をやりたい」という80代男性の患者像
施術モニターの募集をしたのが今年4月末、モニターの応募は2名いらっしゃいました。
条件として高円寺の当院に月2回お越しいただけること、約半年間の施術を継続していただき、その間の体調の変化を記録することをお願いしています。
そのうちの一人が横浜市内に住むTさん、80代の男性です。
鍼灸師である娘さんの勧めでモニターに応募されました。現役の頃は仕事ひと筋で市内にある工場で働いていました。工場内の騒音が大きかったことから耳が遠いこと、80代になって歩く際に足元が覚束ないこと。
そして、巨人軍のファンで地元の草野球の試合に出たいこと、今は一人暮らしで身の回りのことは全部自分でやっていることなどを伺いました。
いわゆる後期高齢(75歳)を過ぎるころから、ヒトの健康状態は個人差が大きくなります。
まだまだ活動的な方もいれば、それまでの生活習慣の影響で病に伏せてしまっている方もいます。
Tさんのように自分で身の回りのことができるのは、自立した生活を送るうえで何物にも代えがたい価値です。そして、その土台となるのが足腰がしっかりしていて、自分の足で歩けることです。
高齢者のフレイルについて
ヒトは老化の過程で、以前は何気なくできていた歩くという動作にも少しずつ変化が現れてきます。
歩く速度が遅くなる背景には足の筋力低下だけでなく、バランス能力の低下、関節の動かしにくさ、持久力の低下など、さまざまな要因が関係しています。
転ぶことへの不安から無意識に歩幅を小さくしたり、慎重に足を運ぶようになる方もいます。
こうした心身の衰えが重なり、健康な状態と介護が必要な状態の中間にある段階を「フレイル」と呼びます。
そこで役立つのが、10メートル歩行テストなどによる歩行速度の測定です。一定の距離を歩くのに何秒かかるかを調べることで、歩行能力を数値として把握できます。
定期的に測定すれば、本人が気づきにくい小さな変化を捉える手がかりにもなります。
ただし、計測した数値の良し悪しだけで判断しないことが大切です。
以前より歩くのが遅くなったとしても、そこには何か理由があるはずです。体の変化を早めに捉えて、その方に合った運動やケアにつなげていく。そのような積み重ねが、自分の足で歩き続けることにつながると考えています。
Tさんの初回見立てと施術方針
Tさんは鍼灸師の娘さんと一緒に、横浜から当院までお越しになりました。
自覚している症状としては、不眠、耳鳴り、膝の痛みの訴えがあります。
最近の気づきとしては、歩くのが遅くなってきたこと。階段の上り下りが手すりを持ちながらゆっくりになっていることをお話しくださいました。
2026年5月18日・施術前の状況
初回・施術前の写真撮影



(感想)
写真を見る限りですが、立位では肩の位置よりも頭が前方に突き出ている様子が確認できます。
やや猫背気味で立っていることがわかります。後ろから見た写真では頭が右に寄っており、若干、右に傾いていることも確認できました。
隆椎(首の付け根にある第七頚椎)から肩峰までの肩幅を比べると、左に比べて右のほうが距離か短いこともわかります。ここから、僧帽筋を始めとする右肩まわりの筋肉が緊張していることが推察できます。
施術アプローチの定量化
施術をするうえで、クライアントさんの体調は日によって異なります。
実際の臨床ではその時々に応じた場所に必要なテクニックを用いて施術を行うのが通常です。
しかし今回は、施術による変化を定量的に検証するための一歩として、決まった見立て、決まった施術を行っていくことを決めました。毎回の施術は次の部位にアプローチを行いました。施術時間は約40分です。
施術による変化を記録しています
施術による変化を測定するために、次の2つの計測を決めました。
ひとつは、写真を撮影すること。
具体的には、立位姿勢での前屈、後屈、側屈をしてもらいます。
また座位の姿勢は体幹の回旋動作を行います。
2つ目は歩行テスト
・10メートル歩行テスト
・TUGテスト(Timed Up & Go Test)です。
歩行テストは施術を始める前に。
写真撮影は施術の前後に、それぞれを隔週で行いました。

10メートル歩行テストは、
10メートルの直線を歩く時間を測定し、歩行速度(m/s)を算出します。
TUGテストは、
椅子からの立ち上がり、3メートルの歩行、方向転換、再び椅子に座るまでの一連の動作に要する時間を測り、高齢者の移動能力や転倒リスクを総合的に評価します。
どちらもリハビリテーションの基本的な評価指標です。それぞれ3回行い、平均値を算出しました。
Tさんの施術録
ここからは施術の際の様子と施術前後で撮影した内容を綴っていきます。
施術前(左)と施術後(右)の姿勢と動きを比べて、記録としています。
施術前後の写真撮影による姿勢の変化
1回目:5月18日


3回目:6月19日


5回目:7月17日


7回目:8月10日
この日は都合により、写真撮影は行いませんでした。
9回目:9月7日


11回目:10月16日


歩行テストによる記録の経過
それぞれの歩行テストでかかった時間は次の表のとおりです。
3回計測し、歩行にかかった時間を記します。
| 10m歩行テスト | TUGテスト | |
| 6月1日 | 8.73秒 | 12.36秒 |
| 6月29日 | 9.42秒 | 13.69秒 |
| 7月27日 | 8.85秒 | 14.41秒 |
| 8月24日 | 8.77秒 | 14.03秒 |
| 9月27日 | 9.53秒 | 13.26秒 |
| 11月2日 | 計測予定 | 計測予定 |
10メートル歩行テストは距離(10m)を所要時間の平均で割ることで、1秒当たりの歩行距離(m/秒)を算出します。10メートルの歩行に8.73秒かかった場合は、平均1.15m/秒となります。
1.0m/秒未満 → 外出能力に制限
0.8m/秒未満 → フレイル・転倒リスク増加
0.6m/秒未満 → 生活自立度低下の可能性
1秒あたり1.0mを下回ると外出能力に制限があると判断される指標です。
期間中の計測では、いずれも1.0m/秒未満を下回ることはありませんでした。
まとめと感想
最後に、Tさんに依頼したアンケートを紹介します。

自分の足でいつまでも歩けることは、超高齢社会を迎えた現代では何物にも代えがたい価値のひとつです。
歩行の安定を図るには、足腰だけでなく骨盤や背骨の安定を図ることも欠かせません。
猫背や側弯など背骨の偏りは歩行にも大きな影響を与えます。
年齢にかかわらず姿勢をよくしたい方、歩く姿勢を整えたい方は、まずどこがどのように動いているのか。何が姿勢や動きを制限しているのかを知ることが先です。
解決したいお悩みがある方は当院までご連絡ください。最善の姿勢と動きで日常を過ごせるようにお手伝いさせていただきます。
また施術モニターは年に1回、募集しています。興味のある方は当院のLINE公式にご登録ください。

